ダニエレ・ルガーニは動かない
『石の上にも三年』
古くから使われる言い回しであり、耐え忍べばいつか物事が好転することの例えであり、人生で誰しもが一度は聞いた言葉だろう。
もはや使い込み過ぎて擦りすぎた結果、現代社会人には響かない言葉になってしまったのではないだろうか。
しかしながら、この諺が生まれた極東の地から遠く離れたイタリアの地でこの諺が未だに有用である事を証明している1人のフットボーラーがいる。
その選手の名前は『ダニエレ・ルガーニ』だ。
ユヴェントスに所属する27歳のフットボーラー人生の大半はまさに石の上で三年、いやそれどころか5年以上待ったに違いない。
若くしてエンポリで頭角を表した若者は早くにイタリア最多スクデットの名門ユヴェントスに引き抜かれ、プリマヴェーラでプロになるためのイロハを学ぶ。
2013ー14シーズンには古巣のエンポリへレンタル。そこでイタリア屈指の戦術家マウリツィオ・サッリのもとで才能を開花させる。
警告も退場も一切なしという快挙を成し遂げると共にセリエAベストイレブンに若干20歳ながら選出され、次世代のアッズーリを担う存在として期待された。
トスカーナの地での活躍が認められ15-16シーズンからはユヴェントスに復帰。
カルチョ史上屈指の3バックであり、BBCと呼ばれたバルザーリ、ボヌッチ、キエッリーニから守備技術を盗むことで更なる飛躍を期待された。
しかしながら、若い彼にはあまりにも生ける伝説たちの壁は高すぎた。
元々、内向的で優しい性格だったルガーニはアッレグリからアグレッシブの足りなさを指摘され、また堅実性のある守備スタイルは良くも悪くも際立ったものがなく、それぞれの個性が抜群に突出し補完しあっていた偉大な3名からレギュラーを奪うには至らず、出場機会は限定的だった。
マッシミリアーノ・アッレグリの下で飛躍する事が叶わず、旧来の恩師であるサッリがユヴェントスの監督に就任した後も状況が変わることはなかった。
またティフォージから絶大な人気を誇ったレジェンドであるアンドレア・ピルロが就任したことは去就の決定打となった。
攻撃的なフットボールを標榜し、攻撃志向の強いタレントの才能を活かすシステムがディフェンダーに求めることはとにかく個の力で相手を止めることだ。
ルガーニの様な周囲との連携で組織の一員としてポジショニングと読みの良さで勝負するタイプの選手に居場所は無かった。
そして迎えた新シーズン、彼は5シーズンを過ごしたユヴェントスをついに離れた。
しかしその後、彼を待ち受けていた未来は決して輝かしいものではなかった。
レンヌにレンタルで放出されるもキャリア初の怪我に苦しんだ。
冬の移籍で出場機会を求めたカリアリでも怪我明けのパフォーマンスにキレはなく、満足いくシーズンを過ごすことは出来なかった。
彼は観光名所のお土産売り場で売れ残り埃をかぶった置物の様と同じで、そこにいるのに誰もある事に気づかない、手に取ろうとしない存在になってしまった。
それでも彼は待った。耐え凌いだ。
いつか状況が好転する事を信じ、子供の頃からの心のクラブに貢献するために。
そしてついに自らの出番に向けてひたすら準備を重ねてきた男がついに才能を開花させる。
2022年の年明けナポリ戦、ジョルジョ・キエッリーニとレオナルド・ボヌッチというレギュラーディフェンス陣の故障離脱に伴い、急遽回ってきた先発出場。
多くのサポーターたちが不安を抱え見守る中、彼は自らの存在価値を示した。
試合結果はチームが望むものではなかったが、難敵相手に示した自らのパフォーマンスにルガーニは手ごたえを感じたことであろう。
その後もシーズンで最もハードなスケジュールでもあった1月のローマ、インテル、ウディネーゼ、サンプドリアとの連戦でも相次いで高パフォーマンスを披露し、自信を深めていく。
そして迎えたミラン戦ではキャリアでも最高と言えるパフォーマンスでリーグ最強クラスのアタッカー陣を完封した。
特にミランのレオンとエルナンデスという走力で劣る相手に対してポジショニングと読みで再三に渡り決定機を阻止したプレーは彼の良さを凝縮したプレーであった。
ルガーニはフィジカルが決して優れている訳ではない。
その代わりに試合中、常にボールの位置、相手の位置、味方の位置を把握しながらゴールに結びつく決定的になりうるエリアを把握して細かく非常に丁寧にポジショニング修正を行う。
そして彼の最大の良さは複雑な状況でも最適な選択肢を選ぶ冷静な判断力だ。
アッレグリが守備で採用するマンツーマンとゾーンディフェンスのMIXスタイルは迫りくる人と危険なスペースの誰をどこを優先してつくべきか守るべきか常に頭をフル回転させて最善策を選択する事を要求する。
並みのディフェンダーであれば、試合中の心身の疲労と共に集中を切らし時間の計画と共に選択を間違えてしまうだろう。
しかし、ルガーニは常に冷静にその状況での最善策を選択する。
これはユヴェントス加入以来、偉大な3人のディフェンダーの後ろで、前任者たちのプレーを焼き付け、脳内で反芻し、ひたすら自らの出番に向けて準備をしていたものだからこそ出来るプレーだ。
ルガーニのキャリアはようやく始まったばかりだ。
ただひたすら自らの出番を待ち続けた男にしかできない円熟味あるプレーをひとりでも多くの人の目に焼き付けてほしい。
『乳の上にも三年』
耐え忍ぶ人生もそう悪くはないはずだ。
本作品はフィクションです。実際はそんなに活躍してない、話を盛りすぎだなどの批判はご遠慮いただきますようお願いします。
【本日の美女】
本日の美女はもちろんこの人。
ルガーニの奥様Michelaさん。
顔とボディの主張はかなり強めだが、旦那のキャリアには口を出さずに尊重し支える献身的な最高の奥様です。